東北新幹線は全長713.7キロメートル、日本で最も長い新幹線の路線です。その途中、盛岡駅から東京方面へ二駅進んだ場所にあるのが「水沢江刺駅」です。
この駅は、沿線住民の強い要望によって実現した「請願駅」として1985年に開業しました。地域の熱意が形となった駅であり、今も東北本線水沢駅とともに奥州市や周辺地域の玄関口として、利用されています。
水沢江刺駅という名前には、少し複雑な背景があります。現在この駅がある場所は、旧・水沢市の市域内です。しかし、駅の設置をめぐっては隣接する旧・江刺市も大きく関わりました。
新幹線の駅名は「新青森」、「新大阪」、「新高岡」のように「新」がつくことが多いです
なので、この駅は、当初、「新水沢駅」として開業する予定でしたが、当時隣接していた江刺市が「駅設置にあたり、多くの土地を提供した」と強く主張。
この問題は、様々な機関を巻き込む大問題となり最終的に当時の岩手県知事が広域的な配慮から「水沢江刺」が望ましいと決断しました。
その後、2006年に水沢市・江刺市を含む5市町村が合併して「奥州市」が誕生しましたが、駅名は変わらず「水沢江刺駅」のまま残っています。今では少し長い駅名も、地域の歴史と人々の思いを映し出すものとなっております。
さらに水沢江刺駅は駅完成後にも問題がありました。
駅が完成した当初、新幹線の列車は長くて、12両編成でした。しかし1991年、東北新幹線が東京まで延伸されるのに合わせて16両編成の長い列車が登場します。これにより、ホームを100メートル延長する必要が生じたのです。
延長工事自体はあらかじめ想定されていたため、用地は地元負担、ホーム本体はJR東日本負担と取り決めがありました。ところが問題となったのは「屋根」。東北新幹線の駅は豪雪地帯を走るため、一ノ関駅以北の駅は駅全体を屋根で覆う設計になっています。しかし、その“付け足し部分”の屋根を誰が負担するのかが決まっていなかったのです。
議論の末、最終的にはJR東日本が約1億円をかけて、写真のようにホーム部分だけ屋根を増設しました。
水沢江刺駅には発車メロディーにまつわるトピックもあります。
令和2年(2020年)10月1日から、駅の発車メロディーとして大滝詠一さんの代表曲
「君は天然色」をアレンジした音楽が使われるようになりました。
大滝詠一さんは旧・江刺市(現在の奥州市江刺)出身のミュージシャン。地元の人々が「ぜひ水沢江刺駅の発車メロディーに採用してほしい」と活動した結果、その願いが実現しました。列車がホームを出発する時に流れるこの曲は、今も変わらず旅を彩り、地元の誇りを伝え続けています。
また最近の水沢江刺駅を語るうえで欠かせない話題といえば、大谷翔平選手です。岩手県奥州市旧水沢市は、大谷選手の出身地として広く知られています。
今年6月、駅前にはMLB(メジャーリーグ機構)によって大谷翔平選手をデザインしたマンホールが設置されました。日本出身の他の選手のマンホールも各地に設置されましたが、全国ニュースで特に大きく取り上げられたのは大谷選手のもの。話題性の高さから、このマンホールを一目見るために駅を訪れる人もいました。
水沢江刺駅は、地域の歴史や人々の願いに支えられてきた駅ですが、いまは世界で活躍する地元出身スターの存在によって、新しい注目を集める場所にもなっているのです。
水沢江刺駅のある岩手県奥州市は、「リニアコライダープロジェクト」の候補地でもあります。リニアコライダーとは、素粒子を衝突させることで宇宙や物質の起源を解き明かそうとする巨大実験施設のことです。
この施設は北上山地の地下に建設する計画で、岩手県南部から宮城県北部にかけてが予定地とされています。奥州市が選ばれている理由には、科学的・地理的な条件として安定した地盤や人工振動の少なさ、地震への強さなどがあります。さらに社会的な条件として、近くに東北新幹線やいわて花巻空港といった交通インフラが整っていること、奥州市や隣の一関市での積極的な誘致活動、地域住民の理解と協力も進んでいることが挙げられます。
もしこのリニアコライダーが実現すれば、奥州市は茨城県つくば市のように世界の研究者が集まる学園都市へと発展し、水沢江刺駅もまた国際的な玄関口として大きな役割を担うことになるでしょう。
最後に水沢江刺駅は、住民の請願によって誕生し、駅名の紆余曲折など、地域とともに歩んできた歴史を持つ駅です。近年では大谷翔平選手のマンホールや、大滝詠一さんの「君は天然色」の発車メロディーといった話題も加わり、ただの新幹線の停車駅にとどまらず、地元の誇りや文化を発信する場となっています。
さらに、奥州市は「リニアコライダープロジェクト」の候補地として注目されています。安定した地盤や交通インフラの整備、地域住民の理解と協力などが評価されており、もし実現すれば世界中から研究者が集まる学園都市へと発展し、水沢江刺駅も国際的な玄関口として重要な役割を担うことが期待されています。
水沢江刺駅は、過去の歴史と現在の話題、そして未来の可能性までをつなぐ奥州の玄関口。東北新幹線を利用して奥州市を訪れるとき、この駅には数々の物語が息づいていることをぜひ感じてみてください。