大阪府箕面市の住宅街にある、和田修治さんの自宅兼制作場所を訪ねた。

一階には、工務店の仕事で使う工具が並んでいる。
インタビューの席に腰を下ろすと、長椅子の鉄骨部分に波のような形が施されているのが目に入る。
白いカーテン越しにやわらかい光が差し込み、室内は静かだった。
取材の途中には、愛犬の柴犬がそばに来る場面もあり、生活と制作の時間が同じ場所に重なっている様子が伝わってくる。

二階に上がると、壁には大きなキャンバスが掛けられ、アクリル絵の具や制作途中の作品が置かれていた。花を描いたもの、黒を基調にしたもの、達磨のモチーフ。完成した作品の横に、まだ手を入れている途中のものも並んでいる。

和田修治さんは、工務店の仕事を続けながら、PADDLEとしてレジン(樹脂)やアクリル絵の具を使った作品制作を行っている。制作のきっかけは、工務店の現場で出る木材の端材だった。

「端材が数多く出て、捨てるのにもお金がかかるんです。それを減らしたいというのと、逆に何か現金化できるものを作れないかなと思ったところが始まりでした」

工務店を始めた当初、「海が好きな人の住宅や店舗をつくる」というテーマを持っていた。

自身もサーフィンが好きで、海は身近な存在だった。ただ、そうした依頼がすぐに集まるわけではなかった。現場で出る端材を使い、海を感じるものを作れないかと考えた。

最初につくったのは、サーフィンのフィンの形をした木工細工や、サーフボードの模型のようなものだった。その後、海外のアーティストが樹脂で海の情景を表現している映像を見た。

材料さえあれば、自分にもできるかもしれない。そう思ったことが、レジンを使った制作の始まりだった。
当時、レジン作品はインテリアや家具に近い感覚だったという。工務店の仕事では、顧客の要望に合わせて家具をつくることもあった。

リノベーション会社で現場監督として働き、現場で起こることにその場で対応してきた経験が、手を動かす基盤になっていた。
「自分でできそうなことは、良くも悪くも自分で作ってしまうんです。お客さんが喜んでくれるなら、ちょっと作ってみますわ、という感じでした」

その延長で、レジンのテーブルやベンチも手がけるようになった。
端材を使った制作を続ける中で、プロサーファーに作品を見てもらう機会があった。自分で作品を持って行き、直接見てもらったという。

「いいね」と言ってもらえたことが印象に残っている。

プロサーファーがSNSで紹介したことで、作品を知る人も少しずつ増えていった。
一方で、レジン作品を作る人が増えていくにつれ、制作との向き合い方も変わっていった。

「レジンの作品を作る人がめちゃくちゃ増えたんです。今までは、やっている人が少ないから自分に声がかかっていたのかな、と考えてしまって。もう別にレジンもいいか、というふうになりました」

その後、一度制作から離れ、工務店の仕事に集中する時期があった。会社として仕事を広げようとしていたタイミングだったが、仕事上の大きなトラブルも重なり、精神的にも厳しい状況が続いた。

その頃、制作を待っていた顧客がいた。ハワイに住む人だった。事情を伝えると、
「ゆっくりパドルしていきましょう」
と言葉が返ってきたという。その言葉は、今も残っている。

「パドルという名前もそうですし、サーフィンに助けられているなと感じました。サーフィンに行き出して、徐々に社会復帰というか、やっぱりサーフィンは偉大だなと思い始めたんです」

再び制作に向かう中で生まれたのが、「FLOW」という作品だった。

「水の流れと、自分の人生を掛け合わせたら、メッセージ性のあるものができるんじゃないかなと思ったんです」

海の情景として表してきたものは、水の流れを描く表現へと移っていった。キャンバスの上では、色を重ねながら、流れを探るように手が動いていく。
和田修治さんは、日々の生活の中で感じていることにも目を向けていた。
健康であること、食事ができること、体を動かせること、人と話せること。そうしたことに目が向くようになったという。

「飾っていて、かっこいいとか、かわいいとか、すごいとか、そういうポジティブな感情を与えられるような作品を心がけています」

ニューヨークで美術館やギャラリーを巡った際、強い印象を受けた作品の中には、暗さや怖さを感じるものもあったという。そうした表現があることも理解しつつ、自分が描くものについては、見る人の気持ちが少し動くようなものにしたいと考えている。

制作の場では、実際にアクリル絵の具を重ねる様子も見せてもらった。筆や道具を使い、迷いなく色を置いていく。塗っては削る。その繰り返しの中で、色は混ざるというより、層のように重なっていく。
「左官に似ている感じがありますね。塗り方とかも」

工務店の仕事と制作は、日々の中で行き来している。
朝六時半ごろに起き、七時過ぎから愛犬の散歩に出る。散歩中にはPodcastの収録をすることもある。「ワンワード」というテーマで、一つの言葉を取り上げて話しているという。

工務店の現場がある日は、日中は現場に出て、夕方に戻る。その後、散歩や食事を終え、夜の時間に制作を行う。工務店の仕事がない日は、一日制作にあてることもある。

「アウトプットだけやったら枯渇するんだろうなって、都度感じます。工務店の仕事をして、いろんな人に会うからこそインスピレーションが湧くっていうのを再確認しました」

顧客に作品を見せると、相手の好きな画家やアートの話になることもある。
現場での会話が、そのまま制作に影響することもあるという。
現在は、「縁」や「恩」といった言葉をテーマにした作品にも取り組んでいる。
「縁」は丸の中に流れを描き、人生の一場面のような形で表している。
「恩」は、墓参りに訪れた寺で見かけた言葉がきっかけになった。
祖父母の墓を訪れ、掃除をしながら過ごす時間の中で、その言葉が印象に残ったという。

海外での展示も経験している。
鎌倉での個展では、日本人は海の情景を描いたレジン作品に反応することが多かった一方、外国人観光客は「FLOW」に強く反応したという。
その後、ニューヨークの公募展に応募し、入選した。

海外で活動を広げることも考えているが、資金面などの課題もある。支援者やパトロンを探していることについても、率直に話していた。

作品はできるだけ自分で届けるようにしている。東京まで持って行き、画廊を訪ねて直接話をすることもある。

「SNSの時代ですけど、結局SNSも人が動かしているんで。人がつないでいく化学反応が好きなんです」

箕面の制作場所には、作品とともに、試作中のTシャツや、描き直すかもしれないキャンバス、工務店の道具が並んでいた。手を動かしながら、次の形を探している様子が続いていた。

将来的には、古民家や廃校を活用し、ギャラリーやアトリエとして使える場をつくることも考えているという。
工務店としての技術を使い、自分で空間を整えることも視野に入れている。

取材の終わり際、作品を手に取り、壁にかけ、道具を動かしながら説明してくれた。色を重ねる手つきには迷いがなく、話しながらも手は止まらなかった。

一階に戻ると、柴犬がそばにいた。
カメラを向けると、和田修治さんの表情が少し緩んだ。
大阪・箕面の住宅街にあるこの場所で、和田修治さんは、工務店の現場と制作を行き来している。
取材:2026年4月