このカフェバーに通い出したのは、高校三年生の冬のことです。高校を卒業すると、何度も職を転々としながら、ここに通い続け、本、音楽、映画、ファッション、仕事の流儀など、様々なことをマスターに教えてもらい、珈琲やウイスキーをがぶがぶと飲み続けました。
そういう意味で、僕にとっての大学はこの半空だったのかもしれません。ブコウスキー、ヘンリーミラー、小林秀雄、亀井勝一郎、植草甚一、伊丹十三、ゴッドファーザー、ダルデンヌ兄弟、コーエン兄弟、北野武、ギルエヴァンス、サドジョーンズ、ゆらゆら帝国、はっぴいえんど・・・
ここに来ないと、知ることができなかったカルチャーに、十年近くたくさん触れながら育ってきました。今、僕は外海書房という移動古本屋をしていますが、そこに並べていある本も、半空の影響を感じるラインナップだな、と自分でもしみじみ思います。
飲み終えた珈琲の、カップの底に残った三日月が乾き、豆の残り香がカウンターに広がる深夜。営業時間を過ぎてもずっと、マスターや常連の方々と、本や音楽の話で盛り上がりながら話していたのを、昨日のことのように覚えています。
この店独特の、重心の低い苦味がボディーブローのように効いてくる濃い珈琲を飲んでいると、ここで過ごした贅沢な時間の思い出が、ぎゅっと凝縮され、今ここにいる僕を作っているんだな、と感じる時があります。そういう、店員と客が共に織り合って、紡いできた空気を感じる店こそが、時間の流れに押し負けない名店となっていくのではないでしょうか。
珈琲と本と音楽 半空
〈月〜土〉昼1時〜深夜3時
〈日〉昼1時〜夜12時
香川県高松市瓦町1丁目10-18北原ビル2階
〈月〜土〉昼1時〜深夜3時
〈日〉昼1時〜夜12時
香川県高松市瓦町1丁目10-18北原ビル2階