観音寺市にある高屋神社の「天空の鳥居」は、現在香川の人気観光スポットになっています。しかしそれとは別に、もう一つの天空の鳥居があるのを、知っている人は少ないのではないでしょうか。


僕もつい最近まで知らなかったのですが、それは坂出、番の州の工場地帯の奥の方にある、陸続きの瀬居島という場所にあります。去年の10月に、ようやくそこへ行くことができました。僕の住む牟礼からは、車で1時間近くかかる場所です。道中、TSUTAYAで借りた「何がジェーンに起こった?」という映画を、車のDVDプレイヤーで再生し、BGM代わりにしながら、窓の外の、正午過ぎの空に白煙を登らせる、工場地帯を眺めながら向かいました。
到着すると、瀬戸内海に浮かぶ島々と同じように、あらゆる音がふっと途絶え、海や街並みに吸収されたような静けさが広がっていました。確かにここは島だ。そう思い、遠い坂の向こうで赤くぽつん立った鳥居を見つけ、民家の隙間を潜り抜けながら坂道を登ります。
鳥居から見下ろした街の風景は、雑味を取り除き、すっきりとした新茶のような、爽やかで、何の衒いもなく澄ました印象を受けます。本来、何十年もの間、人の生活はこのような静けさの中にあり、便利さと華やかさに過剰包装された僕たちが、忘れていたものが眼下に広がっていました。


海と空の間に線を引くような、巨大な瀬戸大橋を眺め、ぼんやりとした時間を過ごした後、車に乗って帰路に着きました。せっかくなので、普段から通っていない道を通り、ゆっくりと帰ってた途中、JR八十場駅の近くにある、大きな木の下のベンチを見つけ、その側に車を停めてベンチに腰掛けました。
夕暮れの優しい光が周囲を包み、風の匂いを嗅ぎながら、日の当たる駅のホームの写真を撮りました。どこまでも伸びる線路の真っ直ぐさに、心が洗われるような気持ちになります。
帰り道、「何がジェーンに起こった?」も無事クライマックスを迎えます。かつて天才子役として名を馳せた女性が、歳をとることに落ちぶれ、代わりに姉が演技派女優としてどんどん成功していく様に心を病み、姉を蹴落としもう一度スポットライトを浴びようとするという、往年のサスペンス映画。華やかな人生や幸福に縋りついてしまう人間の欲を、見事に描き切った作品です。


しかし、輝かしいスポットライトに当たることが本当に幸せかどうか、僕には懐疑的です。作中でも、幸せに縋ろうとする妹の姿は常に苦しそうに見えました。観光地でもない、すぐ傍の日常にあるような場所の、柔らかい光の中で、思いっきり深呼吸をする。そんな、何の衒いもない瞬間の中にこそ、幸せが眠っている気がします。