『かまがわ文庫』は、宇都宮市の中心を流れる釜川(かまがわ)沿いにあります。読み終えたら返しても返さなくてもいい・・・図書館です。
無人図書館でありながら、綺麗に並べられた書籍を楽しむことが出来るこの空間は、ちょっとしたアートスペースでもあります。
誰かが大切にしていたであろう一冊は、ここに持ち込まれ、次の誰かに。。。
どうぞご自由に のスタンス・・・
この美しい循環は、きっと「誰もいないこと」から生み出されるのであろう。
釜川(かまがわ)

裏通り。日々の風景をつくる人|かまがわ文庫 | ローカルニッポン

県庁所在地の駅から、例えば西にまっすぐに伸びる大通り。地元で生まれ育った百貨店のビルにはテナント閉店の張り紙。大通りから1本入った通りには、アーケード商店街。下校中の高校生の自転車の流れを縫うように買い物客が歩く。さらにもう1本、裏通りに入ると、シャッターを下ろした商店やコインパーキングが点在する中を点で繋ぐように個性的な古着屋さんや青果店や、小さなカフェがぽつりぽつりと。そのように外観される地方都市の町に個性があるとしたら、それはやはり、裏通りかもしれません。栃木県宇都宮市の中心部には、昭和23年に発足した全長約500mのアーケード商店街「オリオン通り」があります。その裏手を流れる小さく細い一級河川の釜川沿いの裏通りの一画に、2015年の4月、小さな「場」が新しく作られました。小さな黒板に、こんなメッセージが描かれて。    LEAVE A BOOK YOU’D LIKE TO SHARE    TAKE A BOOK YOU’D LIKE TO READ 裏通りに生まれた小さな文庫    ほかの誰かにも読んでもらいたい本を置いて。    あなたが読みたい本を持ち帰って。    誰もが使えるまちの本棚ができました。 誰もが使えるまちの本棚は、「かまがわ文庫」と名付けられました。手放してもいいと思う本を1冊もってきて、読みたい本を持ち帰る。こんなシンプルな仕組みの無人の文庫を始めたのは、小さな川を挟んだ向かい側でアパレルのセレクトショップcynic(シニック)を営む山田直由さんと公務員の坂井香林さん。 裏通りに面したオープンスペースに開かれた文庫は、次第に蔵書も増え、通りの商店主のみなさんや地域の方達、ときおり通りすがりの買い物客や昼休みにふらりと訪れる会社員など、さまざまな人が、本を媒介に行き交う場になっています。 「気に入った本があれば、持ち帰ってもらってかまわないんです。ここの本にはすべて、蕪のスタンプを押しています。いろんな地域に、小さな蕪(かまがわ文庫の略)のスタンプが押された本が広がるって、なんだか楽しいでしょ」 と、坂井さん。本を持ち帰って読んだ方が、「ありがとう、また来ます」の手紙を挟んで戻してくれることもあったと聞きます。 山田さんは、大学を中退してこの近辺のお店で働いたあと、19年前に独立して自分のお店を開きました。 「裏通りのこの一画には商店会があるわけではなく、気の合う8店舗が緩やかに繋がっています。オリオン通りに対して裏通り。その立地が好きで、ここに店を出す人がいて、ふらりと遊びにくる人がいる。お店を始めた頃と、この通りは、あまり変わっていないですね。相変わらず静かなまま、というか…」 と、笑顔を見せる山田さん。その状況を、そう悪いことだと思っているわけでもなさそうな表情です。 もうひとりの発起人、坂井さんは、宇都宮で生まれ育つも、若い頃は一度も足を踏み入れたことがなかったエリアだと言います。市の職員である坂井さんが中心市街地の担当になったのが5年前。その時に、釜川沿いに事務所を構えていたデザイナーに、このエリアで始めるイベントの相談を持ちかけられたのが最初の縁だったそうです。山田さんいわく「相変わらず…」というこの小さな裏通りにも、これまでには、いろんな動きがあったようです。 宇都宮市でも20年以上前から、行政が中心に、あるいは起点となって中心市街地の賑わいを取り戻していこう、というさまざまな試みが始まっていました。釜川エリアは、戦前までは水質もきれいで、川沿いの通りには染物屋や鰻屋もあったそうです。流域の開発が進んだ戦後は、水質の悪化や大雨時の氾濫を解消するための改修がなされ、釜川プロムナードと名付けられて、親水公園として緑化やベンチの設置などの整備が進められてきました。 昭和の時代の商店の建物の風情が残る水辺の通りには、洋服屋さんや雑貨店、ヘアサロン、飲食店など、個性的なお店が並びます。その一画で、山田さんが初めて他の店舗オーナーとプロジェクト的なことを行ったのは、2011年の震災直後の初夏のことでした。 山田: 「計画停電でお客さんも来ないし、いろいろ考えたり作ったりする時間があったんですよね。それで、うちと他のお店のオーナー達やデザイナーと相談してチャリティTシャツを作りました。売上は赤十字に寄付して、その後2回は続けたかな。それからですね、もっと多くの人に釜川沿いの魅力を楽しんでもらおう、なにかやろう、という流れになってきたのは。それで2012年に始めたのが、釜デパなんです」 釜デパ? KAMAGAWA DEPARTMENTのことですね。坂井さんが相談を受けたというイベントも、釜デパでしたか? 坂井: 「そうなんです。相談ごとは、イベント時に設営するテントを組むための竹のこと。必要な量だけ切らせてもらえる竹林を探している、という内容でした」 KAMAGAWA DEPARTMENT、通称「釜デパ」は、毎年8月第4土曜日に行う、商店主たちが発起人となり企画や運営からすべてこなした民間のイベントです。通り沿いに、自分たちで切り出した竹を用いて作ったテントを並べ、地元の商店だけでなく他の地域の人気店も呼び、まさに手づくりの1日限りの「釜川百貨店」とも言える催し。買うこと、食べることだけではなく、近隣の大学も参加し映像のパフォーマンスやキャンドルでの空間演出などもプログラムに組み入れられ、このエリアでいかに楽しい時間を過ごしてもらえるか、地域の商店主さんたちの気持ちが込められたイベントでした。 イベントの、その先の風景へ かまデパが始まった翌年、2013年には、空き家をリノベーションしたシェアハウス「KAMAGAWA LIVING」や、「かまがわ文庫」が場を借りているオープンスペース「KAMAGAWA POCKET」が生まれています。そして、釜デパに参加する商店などが中心になって、毎月第4土曜日は営業時間を22時までに延長して夜の町歩きを楽しんでもらう企画、「かまがわよるさんぽ」も始まりました。 そして2015年の春、4回目の夏の「釜デパ」に向けて始動する時期に、実は山田さんは、イベントの目的や意味、続けることについて悩み始めていました。毎年回を重ねるごとに認知度もあがり、大勢のお客さんが楽しみにして1日限りのお祭りに集まるようになっていたのですが…。 山田「たしかに、街の中のハレのイベントにはなっていたと思います。でも、主催する僕たちが疲れ始めていた、というのが正直なところ。竹林に行って大量の竹を切り出すところから始めて、出店者を募って、調整して、打ち合わせして、発信して…それをそれぞれのお店の開店前や閉店後にこなしていくことが、次第に辛いものになってきて…。身の丈以上のことをして、自分たちが楽しめなくなっていました」。 「かまデパ」の閉じ方を意識し始めながら、山田さんが新しく形にしようとことは、子どもの頃から水のように空気のように、自分自身に吸収し続けてきた本に関するイベントでした。 山田: 「最初は、いまの『かまがわ文庫』のような常設のスタイルではなくて、1年に1回、本にまつわるイベントをここで開催できたらいいなあと考えていたんです」 山田さんが最初に相談したのが、かまがわポケットの代表、中村周さんでした。当時、市内の大学で建築意匠を学んでいた中村さんが、アトリエ兼住居として使える建物を探すなかで巡りあったのが、釜川沿いの築60年の空き家でした。地元の工務店さんにお世話になりながら大学の仲間や後輩とリノベーションを進め、どうせ住むなら、まちづくりの拠点としてみんなで使える場にしようと考えたそうです。道沿いにイベント用のオープンテラス、その奥にミーティングにも使えるアトリエ、そして住居スペースという3つのスペースをもった拠点が、2013年秋に、山田さんのお店の向かいに生まれていました。 相談を受けて山田さんのプランを聞いた中村さんは、「そういう企画は、坂井さん好きですよ。きっと一緒にやる!と賛同してくれますよ」と、かまデパを契機に繋がっていた坂井さんの名前を挙げました。「本にまつわるイベントを年に1度」という山田さんの話を聞いた坂井さんは、「年に1回の大きなイベントをやるより、小さなものでいいから毎月1回とか、定期的に開催したほうがいい、私もやりますから!」と山田さんに提案。坂井さんは「中村くんの予言通りになったわけです」と笑いながら、そう提案した理由を話してくれました。 坂井: 「かまデパを開催して通りが賑わったとしても、イベントの時だけのお客さんが多くて日常的な集客に結びついていないように見えていたんです。県内のいろんな有名な飲食のお店にも声をかけて出店してもらっていたので、お客さんの中には、そんな有名店を追ってイベントを渡り歩いて楽しむ人たちも少なからずいらっしゃいます。結局は、イベントの時だけのお客さんが増えて、経済の面でも人の繋がりの面でも、日々が、日常が、潤わないと意味がないんじゃないかなあと思っていて…。釜川エリアだけではないんですが地域振興のイベントって、そもそも何にためにやるんだろう?というモヤモヤした懐疑的な疑問をずっと持っていました」 そんなモヤモヤは、山田さんも抱えていたモヤモヤとも重なりました。1番最初の打ち合わせから、そもそも何のために? 無理なく続けていくには?と、意見交換を重ね、約2週間でコンセプトや仕組みなどを固め、ブログの開設まで進んだそうです。「本を通していろんなことを伝えたいと思っていた山田さん、拠点として作ったKAMAGAWA POCKETから街の風景を作りたいと思っていた中村くん、そして、いろんな地域振興やイベントを見聞きしていて、居場所作りの必要性を感じていた私。それぞれの思いが重なり合って、短期間でも中身の濃い組み立てができたと思います」と、坂井さんはその2週間を振り返ります。一致したビジョンは、小さな催しを「毎月1回」を続けていく先に、土地に根づく「場」が自然とできてくる…というイメージです。 山田: 「常設での無人の『かまがわ文庫』と、そのスペースを使った月に1度の催しを同時に始めました。両方を行うとことで、イベントのハレの空気も日常のものに変わっていく、いい流れができるのではないかな、と」。 2015年の5月に始まった月に一度の催しは『ツキイチトショカン』と名付けられ、この3月で23回目を終えました。参加者の方たちといい時間を重ねていることが、ウェブサイトのブログからも伺えます。毎回テーマを決めて、テーマに沿った本の展示を基本的にふたりの蔵書から行い、インスタレーション的な空間の作り込みがなされています。テーマによっては、ゲストを迎えて本のセレクトをお願いしたり、作品の展示をお願いすることも。基本的に毎月第3土曜日に開催し、17時に開場して21時に閉館。日常的に文庫を利用してくれている近所の方たちや、遠方からの固定ファンも。毎月口コミやネットで知って訪ねてきてくれる人も増えています。当日、飾り付けの準備などをしていると、ふらりと様子を見に来た通りの住人の人が手伝ってくれることもあるそうです。...

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