三月の終わり、JA高知県 安芸ユズ加工場は静かだった。天井の高い建物の中に人の姿はまばらで、収穫期を過ぎたラインは止まっている。
広い構内に音はほとんどない。搾汁機は二階の設備として、ガラス越しに見える位置にあり、洗浄を終えた状態で静かに並んでいた。
秋から初冬にかけてここを埋めるはずのゆずの姿は、もうない。けれど、何もないその空間には、収穫の時期に一気に動く工程の名残が残っているようにも見えた。
この場所を案内してくれたのは、安芸市でゆずを育てる小松正博さんである。収穫の時期には農家が持ち込んだ実がここで計量され、ホッパーに移され、二階の搾汁施設へ運ばれていく。
搾ったあとの皮も販売されるが、果実の約半分は残渣として処理される。果汁になるのは約二割、皮として活かせるのも二割から二割五分ほどだという。一つの実から使われる部分は限られている。
それでもこの工場では、年間で二千五百トンから三千トンほどのゆずが扱われる。収穫してから三日以内には搾汁するため、十月から十二月にかけては一気に忙しくなる。
この場所を案内してくれたのは、安芸市でゆずを育てる小松正博さんである。収穫の時期には農家が持ち込んだ実がここで計量され、ホッパーに移され、二階の搾汁施設へ運ばれていく。
搾ったあとの皮も販売されるが、果実の約半分は残渣として処理される。果汁になるのは約二割、皮として活かせるのも二割から二割五分ほどだという。一つの実から使われる部分は限られている。
それでもこの工場では、年間で二千五百トンから三千トンほどのゆずが扱われる。収穫してから三日以内には搾汁するため、十月から十二月にかけては一気に忙しくなる。
最盛期には工場で働く人も増え、構内いっぱいにトラックが出入りする。取材した日の静けさからは想像しにくいが、今はその季節と次の季節のあいだにある時間だった。
工場の説明は、仕組みをなぞるだけで終わらない。果汁用と青果用の分け方、青ゆずの出荷時期、搾汁機の構造、皮から油を取る工程。ひとつひとつの工程の背後には、畑での選別や時期の見極めがある。
ゆずは収穫して終わる作物ではなく、その前後にも長い作業が続いている。工場にある静けさも、単なる休止というより、次の収穫へ向かう流れの中にあった。
その後に向かった畑では、空気がさらにやわらかくなる。
ゆずは収穫して終わる作物ではなく、その前後にも長い作業が続いている。工場にある静けさも、単なる休止というより、次の収穫へ向かう流れの中にあった。
その後に向かった畑では、空気がさらにやわらかくなる。
前日の雨が残っていたが、この日はよく晴れていた。
空は青く、葉の濃い緑がはっきりと見える。畑の周囲には家がまとまって建ち、山の中にぽつんと開かれた畑とは少し異なる景色が広がる。
倉庫の向かい、道を挟んだ先に小松さんの家があり、その前には柴犬のハチがつながれていた。
倉庫の向かい、道を挟んだ先に小松さんの家があり、その前には柴犬のハチがつながれていた。
こちらに気づくと、尻尾を振りながら小さく声をあげる。人の気配に反応するその様子が、畑のまわりにある暮らしの近さを感じさせた。
倉庫の裏手には、五十年から六十年は経っているという実生ゆずが残っている。
倉庫の裏手には、五十年から六十年は経っているという実生ゆずが残っている。
高く伸びた枝の上の方には、手の届かなかった実がいくつか残っていた。小松さんは、その木を見上げながら、放っておくとゆずは上へ上へと伸びていくと話した。
そこから畑へと進むと、今年植えた苗木、五年目の木、三十年ほど経った木が、区画ごとに分けて植えられている。
三月の畑で続いているのは剪定である。目的は、木全体に日光が当たる状態をつくることにある。放置すれば、日の当たる外側にだけ実がつき、内側の枝は枯れていく。枯れ枝は病気の原因にもなる。
そこから畑へと進むと、今年植えた苗木、五年目の木、三十年ほど経った木が、区画ごとに分けて植えられている。
実をならせるためだけでなく、病気を防ぎ、次の枝を育て、作業しやすい高さを保つために、どこを切り、どこを残すかを見極める必要がある。
放っておけば高く伸びていく木を、現在の栽培では高さを抑え、枝を横に寝かせるように誘引し、三段の脚立で届く範囲に収める。その形を整えることも、大切な仕事の一つとなる。
放っておけば高く伸びていく木を、現在の栽培では高さを抑え、枝を横に寝かせるように誘引し、三段の脚立で届く範囲に収める。その形を整えることも、大切な仕事の一つとなる。
実際に見ると、剪定後の木でも葉は多く残っている。小松さんによれば、一果を育てるのに百枚から百二十枚の葉が必要だという。
葉を減らしすぎれば養分が足りなくなり、残しすぎれば光が届かない。枝をすいていく作業のように見えるが、残す量の見極めでもある。
さらに、ゆずはその年に新しく伸びた枝には実をつけない。春に伸びた芽が一年を経て結果母枝となり、次の春に花がついて実になる。
畑の周囲に張られたネットは、鹿よけのためのものだった。
現在の剪定は、その年だけでなく翌年以降の実りにも関わっている。今、目の前で切られている枝も、単に形を整えるためのものではない。
収穫期と現在とでは、畑の様子も大きく変わる。十月半ばから十二月上旬までは、ほとんど休みなく収穫が続く。人も雇い、出荷に追われる。一方で今は農閑期にあたるが、作業がなくなるわけではない。
収穫期と現在とでは、畑の様子も大きく変わる。十月半ばから十二月上旬までは、ほとんど休みなく収穫が続く。人も雇い、出荷に追われる。一方で今は農閑期にあたるが、作業がなくなるわけではない。
年末から剪定を始め、三月には植え替えも行う。四月に芽が出れば病害虫の防除が始まり、五月に花が咲く。
その後は収穫まで気の抜ける時期がない。七月から八月には、果実に袋をかける作業も加わる。日焼けを防ぎ、色づきを整えるための工程だが、一年で最も暑い時期に行う負担の大きい作業でもある。
植えてから収穫までに四年を要することも、この作物の特徴である。二年目には花も実もつくが、それを残すと木が育たないため、摘果して取り除く。
植えてから収穫までに四年を要することも、この作物の特徴である。二年目には花も実もつくが、それを残すと木が育たないため、摘果して取り除く。
三年間は保育の期間にあたり、収穫よりも成長を優先する。実がなるまでの年数だけでなく、その間に必要な手入れもまた長い。
こうした手入れの中でも、思うようにならないことは避けられない。ゆずは隔年結果し、実の多い年と少ない年が交互に来る。さらに台風や水害、目に見えにくい害虫の発生、温暖化による日焼けも影響する。
こうした手入れの中でも、思うようにならないことは避けられない。ゆずは隔年結果し、実の多い年と少ない年が交互に来る。さらに台風や水害、目に見えにくい害虫の発生、温暖化による日焼けも影響する。
上向きについた実は日差しを受けやすく、青果として出せなくなることが増えている。以前にはあまり意識しなかったことが、今では作業の前提になりつつある。
鹿は新芽や若い木の皮を食べ、イノシシは地面を掘り返し、猿は枝を折る。鳥獣害は日常的に対処が必要な問題になっている。
同時に、人手の不足も続いている。特に収穫期には人手の確保が大きな課題になるという。一方で、今の時期に行われている剪定も、一本あたり三十分ほどかかる。木の本数を考えれば追いつかない計算になるが、それでも手を入れていくしかない。
安芸ではこの二十年ほど、生産者数も面積も大きくは減っていない。定年後に農業を引き継ぐ人もおり、水田を転換してゆずを植えてきた経緯もある。
小松さんは、収穫したゆずを農協に出荷している。そのゆずは、ミツカンで使用されるゆずとして、JAのゆず加工場に運び込まれている。こうした関係は長く続いてきた。
価格や出荷量は農協を通じて決まるが、ミツカンの担当者との現場でのやり取りもある。担当者は工場だけでなく畑にも足を運び、搾汁期には顔を合わせる機会も多い。
外部の環境が変わる中でも、畑では一本ずつ枝を切り、苗を植え、状態を見ながら次の作業へ移っていく。
取材の終わりに、小松さんは午後には剪定に戻る予定だと話していた。前日の雨で濡れた葉が午前中のうちに乾けば、再び畑に入るという。
同時に、人手の不足も続いている。特に収穫期には人手の確保が大きな課題になるという。一方で、今の時期に行われている剪定も、一本あたり三十分ほどかかる。木の本数を考えれば追いつかない計算になるが、それでも手を入れていくしかない。
安芸ではこの二十年ほど、生産者数も面積も大きくは減っていない。定年後に農業を引き継ぐ人もおり、水田を転換してゆずを植えてきた経緯もある。
小松さん自身も、もともとはJA職員として働き、その後ナスづくりを経て、米からゆずへと切り替えてきた。現在の畑は、そうした選択の積み重ねの上にある。
この地域でゆずが続いてきた理由についても、小松さんは特別な物語として語るわけではなかった。中山間地に適した作物であること、作業の負担と収入のバランス、そして取引による価格の安定。いずれも、日々の営みの中で現実的に選ばれてきたものだった。
小松さんは、収穫したゆずを農協に出荷している。そのゆずは、ミツカンで使用されるゆずとして、JAのゆず加工場に運び込まれている。こうした関係は長く続いてきた。
価格や出荷量は農協を通じて決まるが、ミツカンの担当者との現場でのやり取りもある。担当者は工場だけでなく畑にも足を運び、搾汁期には顔を合わせる機会も多い。
試作品の味を確かめる場面もあり、やり取りは日常の中で重ねられている。工場の案内の途中でも、小松さんはそうした関係を特別に飾ることなく、日常の話として口にしていた。
さらに、現場で意識されているのは今後の生産量である。需要に対して供給が追いついていない状態があり、生産量の確保は課題として認識されている。将来的な供給環境の変化を見据えながら、安定した生産を続けていく必要もある。肥料や資材の価格は上がり続けている。収穫の終わった三月の畑には実はない。それでも、枝の伸び方を見て、切る場所を決め、木の形を整えていく手は止まらない。
次に花がつく前の、まだ目立たないこの時期にも、次の実りへ向けた準備が進んでいる。
取材:2026年3月












