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中洲大洋最後の一日 その三
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趣味・カルチャー
福岡県・中州
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建物の外に出ると、テレビ局のカメラをはじめ来た時をはるかに上回る数の人だかりができていました。
天神に向かう途中という立地もあり、普段から人の流れが多い場所ですがそれとは比べ物になりません。
残っていた最後の観客が外に出てきてしばらくすると、岡部章蔵社長による最後の挨拶が行われました。
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挨拶が終わり扉が閉められた時、中州大洋は長い長い78年の歴史に幕を下ろしました。
映画が娯楽の王様だった時代、人々の興味が映画からテレビに移った映画の斜陽期、技術の発達による新しい大作映画がヒットした時代、大手シネコンが進出し小さな映画館が次々と閉館していった時代、そしてコロナ禍。
観客を楽しませる映画館もその実情はいくつもの時代の荒波と戦い、それを乗り越えてきたのです。そしてその戦いがついに終わりました。
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訪れていた人たちも少しずつ去り、明かりの消えた中州大洋が残りました。
閉じられた扉は明日になっても開くことはありません。いつもならまだ明かりが灯っているはずの19時。誰もいない館内を見て、本当に閉館したことを実感しました。
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地方の小さな映画館。しかし街の人にとってはかけがえのない場所です。人生を一緒に過ごしてきたという人もいたことでしょう。
映画を観る楽しみ、誰かと語り合う時間、辛さを忘れることができる場所、中州大洋は訪れた人の心にたくさんのものを与えてくれました。
これからは中州大洋を記憶している人たちが自分自身で、この場所からもらったものを大切にして生きていく番です。
そうすることで、たとえ建物はなくなってしまったとしてもこれからも中州大洋は心の中で生き続けます。
福岡の素晴らしい映画館「中州大洋映画劇場」。本当にありがとうございました。