高松シンボルタワーの中にある Setouchi-i-Base(セトウチ アイ ベース)を訪れると、まず「コワーキングスペース」という言葉が浮かぶ。
実際にその場に立つと、単なる作業の場ではないことが、すぐに伝わってくる。
黙々とキーボードを叩く人がいる一方で、机を囲んで軽やかに言葉を交わす人もいる。
席を立ったところで誰かと短く言葉を交わし、また元の作業に戻っていく人もいる。
話し声が空間を支配することはなく、静けさが張り詰めてもいない。ほどよい余白の中で、それぞれの時間が折り重なるように流れている。
この「同じ場所にいても、同じことをしているわけではない」という感覚は、取材で話を聞くほどに輪郭がはっきりしていった。
実際にその場に立つと、単なる作業の場ではないことが、すぐに伝わってくる。
黙々とキーボードを叩く人がいる一方で、机を囲んで軽やかに言葉を交わす人もいる。
席を立ったところで誰かと短く言葉を交わし、また元の作業に戻っていく人もいる。
話し声が空間を支配することはなく、静けさが張り詰めてもいない。ほどよい余白の中で、それぞれの時間が折り重なるように流れている。
この「同じ場所にいても、同じことをしているわけではない」という感覚は、取材で話を聞くほどに輪郭がはっきりしていった。
「住所を置く」という選択
入口近くの丸テーブルで話を聞いたのは、法人会員として Setouchi-i-Base を利用している織野さんだ。
織野さんは「会社としてここに住所を置かせてもらっていて、郵便もここに届くようにしている」と話す。単に作業場所を借りているのではなく、事業の拠点として日々をここに寄せている。
会社を立ち上げたのは2025年8月。まだ半年ほどだという。それまで勤めていた東京のシステム会社を離れ、香川高専でのつながりをきっかけに、起業のタイミングで香川へ戻ってきた。
織野さんらが立ち上げた BondAI株式会社 では、AIを活用したアプリケーション開発や業務フローの自動化などに取り組んでいる。受託と自社サービスの両方を手がけているが、自社サービスはまだ立ち上げ段階にあり、開発の日々が続いている。
入口近くの丸テーブルで話を聞いたのは、法人会員として Setouchi-i-Base を利用している織野さんだ。
織野さんは「会社としてここに住所を置かせてもらっていて、郵便もここに届くようにしている」と話す。単に作業場所を借りているのではなく、事業の拠点として日々をここに寄せている。
会社を立ち上げたのは2025年8月。まだ半年ほどだという。それまで勤めていた東京のシステム会社を離れ、香川高専でのつながりをきっかけに、起業のタイミングで香川へ戻ってきた。
利用の時間帯を聞くと、「だいたい11時ごろに来て、特に理由がなければ閉館時間まで。平日は9時半までいます」と織野さんは答えた。
会社が小さい時期ほど、拠点となる場所の信頼性は重みを持つ。ここなら長く使っていけるだろうという見立ても含めて、安心感があった。
一方で、安心だけで終わらないのが、この場所の面白さでもある。
織野さんは「周りの人から話しかけてもらえる」「コーディネーターの方ともよく話すようになった」と言う。
その距離感が、重くなりすぎないまま続いている。
会社としての就業ルールが細かく定まっているわけではない。やれる範囲でやるという感覚が、今の働き方に近い。
休日はできるだけ休むようにしているものの、立ち上げ期ならではの密度の濃さが、そのまま一日のリズムになっている。
香川で拠点を探すにあたり、他の施設も検討したという。
香川で拠点を探すにあたり、他の施設も検討したという。
そのうえで Setouchi-i-Base を選んだ理由として、織野さんは「県の施設なので信用面で安心」「金額的にも抑えられている」と挙げた。
会社が小さい時期ほど、拠点となる場所の信頼性は重みを持つ。ここなら長く使っていけるだろうという見立ても含めて、安心感があった。
一方で、安心だけで終わらないのが、この場所の面白さでもある。
織野さんは「周りの人から話しかけてもらえる」「コーディネーターの方ともよく話すようになった」と言う。
相談を“がっつりお願いする”というより、「今こんなことをやっている」と話してみることで、別の人を紹介してもらったり、一般的な進め方のヒントをもらったりする。
その距離感が、重くなりすぎないまま続いている。
勉強のために通う人が、勉強以外を持ち帰っていく
次に話を聞いた松本さんは、個人会員として週に4回ほど Setouchi-i-Base に通っている。
けれど松本さんは、「勉強ができる場所」という理由だけでこの施設を選んだわけではない。
「資格を取るだけではだめで、合格後に自分がどう動きたいのかを考えておきたいんです。試験勉強中にそこまで考えておくほうが、効率がいいと思って。」
次に話を聞いた松本さんは、個人会員として週に4回ほど Setouchi-i-Base に通っている。
目的は、司法試験の予備試験の勉強だ。
ロースクールを経ずに司法試験を受けるためのルートで、合格までの道のりは長い。
けれど松本さんは、「勉強ができる場所」という理由だけでこの施設を選んだわけではない。
「資格を取るだけではだめで、合格後に自分がどう動きたいのかを考えておきたいんです。試験勉強中にそこまで考えておくほうが、効率がいいと思って。」
試験の先にある実務や働き方、人との関わり方までを視野に入れている。
机に向かう時間と同時に、将来の自身のキャリアを形作る時間も重ねている。その両方を並行できる場所として、ここを選んだ。
交流イベントにも積極的に顔を出す。コーディネーターから「こういう人がいるよ」と紹介を受けることもあれば、近隣のコワーキングスペースで開かれるイベントに声をかけられることもある。
「とにかく、行ってみるようにしています」
自分がいま司法試験を目指していること、合格後を見据えて動いていることを率直に話すと、思いのほか耳を傾けてもらえる。
ビールの試飲会に参加し、そこでビール会社や酒造メーカーの人と話したこともあったという。
「とにかく、行ってみるようにしています」
自分がいま司法試験を目指していること、合格後を見据えて動いていることを率直に話すと、思いのほか耳を傾けてもらえる。
司法書士の先生とつながったこともあった。勉強をがんばってね、と声をかけられるだけでも励みになる。
家で一人で机に向かっているだけでは生まれなかった関係だ。
もちろん、ここでは勉強そのものも続いている。
席も使い分けている。話しやすいエリアに座れば会話が広がるし、集中したいときは奥の席に移る。空間の中で、自分のリズムを整えながら勉強と人との関わりを行き来している。
松本さんにとって Setouchi-i-Base は、静かに勉強する場所でありながら、試験の先にある社会との接点を少しずつ増やしていく場でもある。
朝10時過ぎに来て、午前は集中して机に向かう。昼になると、食事をする人やコーディネーターの姿が比較的多い席へ移ることもある。そこで自然と会話が始まる。移住してきた人の話を聞くこともある。午後の休憩時間にはまた別の人と顔を合わせる。
席も使い分けている。話しやすいエリアに座れば会話が広がるし、集中したいときは奥の席に移る。空間の中で、自分のリズムを整えながら勉強と人との関わりを行き来している。
松本さんにとって Setouchi-i-Base は、静かに勉強する場所でありながら、試験の先にある社会との接点を少しずつ増やしていく場でもある。
勉強のために通いながら、勉強以外の経験を持ち帰っている。
「つなぐ」けれど、無理に混ぜない。フロアマネージャーの手触り
そして、Setouchi-i-Base の現場の空気を支えている側として話を聞いたのが、フロアマネージャーの砂田さんだ。
砂田さんは、時間帯によって利用者の層が変わることを教えてくれた。平日の昼間はビジネス利用やミーティングが多く、夕方から夜にかけては仕事終わりの人や高校生が増えてくる。
砂田さんの役割は、「利用者さん同士が話したいけどきっかけがないときに、おつなぎをする」「初めて来た方に利用説明をする」「コーディネーターと話したい方を紹介する」といった、入口に近いコミュニケーションだ。
ただし、つなぐことが目的ではない。
そして、Setouchi-i-Base の現場の空気を支えている側として話を聞いたのが、フロアマネージャーの砂田さんだ。
砂田さんは、時間帯によって利用者の層が変わることを教えてくれた。平日の昼間はビジネス利用やミーティングが多く、夕方から夜にかけては仕事終わりの人や高校生が増えてくる。
イベントのある日は会員以外も訪れ、土日限定のプラン利用者が来てにぎやかになることもあるという。
砂田さんの役割は、「利用者さん同士が話したいけどきっかけがないときに、おつなぎをする」「初めて来た方に利用説明をする」「コーディネーターと話したい方を紹介する」といった、入口に近いコミュニケーションだ。
ただし、つなぐことが目的ではない。
コミュニケーションを求める人と、求めない人がいる。入会時にヒアリングをして、その希望をスタッフ間で共有しているという。
「この人とこの人、合いそうだなと考えながら動いているんですか?」という問いに対し、砂田さんは「それができるように目指している。今は練習中みたいな感じ」と答えた。
着任してまだ1年。日々利用者と向き合いながら、距離の取り方を探っている。
完成した“つなぎ役”として語るのではなく、現場の手触りを確かめながら学んでいる。その言い方が、この場所の温度に合っている気がした。
相談内容についても、「事業を始める前の段階」から「すでに事業を進める中での具体的な相談」まで幅があるという。
“講座で終わり”ではなく、その後のやり取りが続いていく。
放っておいた方がいい人もいる。そこを見極めながら、必要なときにだけ声をかける。
「この人とこの人、合いそうだなと考えながら動いているんですか?」という問いに対し、砂田さんは「それができるように目指している。今は練習中みたいな感じ」と答えた。
着任してまだ1年。日々利用者と向き合いながら、距離の取り方を探っている。
完成した“つなぎ役”として語るのではなく、現場の手触りを確かめながら学んでいる。その言い方が、この場所の温度に合っている気がした。
相談内容についても、「事業を始める前の段階」から「すでに事業を進める中での具体的な相談」まで幅があるという。
講座やイベントが終わったあとも、初めの案件の取り方や個人としての進め方を、コーディネーターに相談し続ける人も多い。
“講座で終わり”ではなく、その後のやり取りが続いていく。
砂田さんは「コワーキングスペースという言葉が一番伝わりやすい」と認めつつも、実際は「ワーキングだけじゃなく、イベント、学び、スキル習得、人との出会いがメイン」と話す。
都心のスタートアップ施設のような“ガツガツ感”や“キラキラ感”とは違い、「誰でも来て大丈夫」という雰囲気がある。
「オープンイノベーション拠点」という言葉だけを聞くと、少しハードルが高そうに感じるかもしれない。でも実際は、「おもしろそう、行ってみようかな」くらいのフラットさがある、と砂田さんは話す。
そして、香川ならではの人の近さについても触れた。
思いがけないところで人がつながる。来てみると「この人とこの人、知り合いだったんだ」と分かることがある。
都心のスタートアップ施設のような“ガツガツ感”や“キラキラ感”とは違い、「誰でも来て大丈夫」という雰囲気がある。
「オープンイノベーション拠点」という言葉だけを聞くと、少しハードルが高そうに感じるかもしれない。でも実際は、「おもしろそう、行ってみようかな」くらいのフラットさがある、と砂田さんは話す。
そして、香川ならではの人の近さについても触れた。
思いがけないところで人がつながる。来てみると「この人とこの人、知り合いだったんだ」と分かることがある。
そうした“近さ”が、出会いの入口として働くという。
まだ目標に向かう人が通い続けられる場所
取材で印象に残ったのは、ここで語られる話が「成功例」や「わかりやすい成果」へ急いでいないことだった。
それぞれが目標に向かう途中にありながら、同じ空間で時間を過ごしている。
まだ考えが整いきらないままでも、ここにいられる。
取材で印象に残ったのは、ここで語られる話が「成功例」や「わかりやすい成果」へ急いでいないことだった。
それぞれが目標に向かう途中にありながら、同じ空間で時間を過ごしている。
この場所は、何かを決め切った人だけのための場所ではない。
まだ考えが整いきらないままでも、ここにいられる。
集中して作業を進める日もあれば、昼休みに交わす何気ない会話から、別の視点を持ち帰る日もある。紹介が生まれることもあれば、そのまま何も起こらない日もある。
Setouchi-i-Base は、作業の場でもある。
けれど、そこで過ごす人たちの話を聞いていると、それだけではないことが分かる。
事業を始めたばかりの人も、資格試験に挑戦する人も、事業の相談を持ち込む人もいる。すでに事業や活動を始めている人もいれば、これから何をするかを考えている人もいる。
その違いが特別に扱われることなく、同じ空間でそれぞれの時間が続いている。
高松のこの場所では今日も、誰かが仕事をし、誰かが勉強をし、誰かが初めて相談をし、誰かが近況を報告している。
何かをすべて決めていなくても通うことができる。まだ考えが整いきらないままでも、ここにいることができる。
Setouchi-i-Base には、そうした日常が積み重なっている。
人が集い、顔を合わせるコワーキングスペースでもある。
けれど、そこで過ごす人たちの話を聞いていると、それだけではないことが分かる。
その違いが特別に扱われることなく、同じ空間でそれぞれの時間が続いている。
高松のこの場所では今日も、誰かが仕事をし、誰かが勉強をし、誰かが初めて相談をし、誰かが近況を報告している。
何かをすべて決めていなくても通うことができる。まだ考えが整いきらないままでも、ここにいることができる。
Setouchi-i-Base には、そうした日常が積み重なっている。
取材:2026年2月












